A子とB夫は貧しい田舎に暮らす恋人同士。
B夫「俺は都会に出て自分を試してみたいんだ。必ず戻るから待っててくれ。」
A子「ずっと待ってるわ。体に気をつけてね。」
B夫「土産を持って帰るよ。何か欲しいものはある?」
A子「じゃあシルクのハンカチーフがいいな。クローバーの刺繍入りのやつ。」
B夫「わかった。忘れないよう東京に着いたらすぐ買うよ。」
A子「都会の絵の具に染まって私のこと忘れないでね。」
B夫「あははは。何をドラマみたいなことを!!」
しかし東京に出たB夫はすぐ都会の色に染まりA子とは音信不通になった。
数年後。
「A子どうしてるかなあ。もう誰かと結婚してお母さんになってるかなあ。」
そんなことを考えながら歩いていると目の前に飛び込んできたのは
大きなポスターだった。「うわーっ!!!!」
すっかり垢抜けているけれどそれは紛れもないかつての恋人のA子だった。
「東京に出てたんだ・・・知らなかった・・・。」
A子は数々の男性と浮名を流すスキャンダラスな女優になっていた。
それからさらに月日は流れ・・・
B夫は都会での暮らしに限界を感じていた。
「田舎に戻って農業でもやるか・・・って俺って陳腐な発想しかできないな
」
何げなくつけたTVには偶然A子が映っていた。
「A子、女優を引退しロハスな暮らしを始める」というニュースだった。
「あはははは!!あいつはいつも俺の想像の斜め上を行くなあ。かなわないや。」

B夫は荷物をまとめ田舎に帰ることにした。
途中、一目でもA子に会いたいと思い彼女のいる自然食レストランに立ち寄った。
店の前には「当店おすすめのメニュー」として豚の生姜焼きの絵があった。
B夫の大好物である。
ドアを開けるとB夫に気づいたA子が猛スピードで走ってきた。
A子「Bちゃーん!!やっと来てくれた、待ってたよー!!!」
思わぬ大歓迎にひるみながらB夫は古ぼけた包みを取り出す。
「あのこれ、今さらだけど・・・」
すっかり変色してしまったシルクのハンカチーフを見てA子は大粒の涙を流す。
「有難う、ずっと持っててくれたんだ・・・。」
「あの、俺、田舎に戻ることにしたんだ。東京でいろいろあって・・・あ、君ももっと
いろいろあったみたいだけど・・・」その言葉にA子が大爆笑する。
「ぷーっ!!!週刊誌とかTVとかで私のこといいろ言われてたでしょ?
あれ全部ウソだから!事務所のヤラセで本当は誰とも付き合ってないの。」
B夫「え!?そうなの!?」
A子の傍らには小さな女の子がいた。「この子、私の親友の忘れ形見なの。
このレストランを始めたのもこの子がアトピーで苦しんでたのがきっかけよ。」
女は皆生まれながらの女優、と言う言葉がB夫の脳裏をよぎった。
彼女の言ってることは全部本当かもしれないしウソかもしれない。
この女の子もA子が産んだ自分の子どもかもしれない。
でももうそんなことはどうでもよかった。自分はずっとA子を待っていた。
都会の生活に疲れたのではなくA子のいない世界が辛かったのだ。
B夫はA子とともにレストランを経営しやがて女の子の父になった。
店の名前は娘の名前の「絹(きぬ)」から取って「KINU」にした。
おしまい。(長いよ!!!)
「木綿のハンカチーフ」を知ってる人にはわかりやすいお話です
あ、絹ちゃんの生みの親の名前は「木綿子(ゆうこ)」という裏設定もあります(爆)
最近のコメント